AIエージェントの作り方|あなたの代わりに話す“人格”の設定の仕方とその理由
前の章では、AIに知識をどう与えるかを整理しました。
しかし──知識があるだけでは、“人の代わり”にはなれません。
AIが“誰として話すか”、そのふるまい・言葉づかい・態度まで決まってはじめて、
ユーザーは安心して話しかけられる存在として受け入れてくれます。
これは、ただ便利な道具を作る作業ではなく、信頼される存在を立ち上げる作業です。
この章では、その知識をどんな“人柄”で、どんな“話し方”で伝えるAIにするかを考え、
AIエージェントの“人格”をどう設定するか、なぜ設定すべきかを整理します。
たとえば:
-
どんな 言葉づかい で話すのか
-
どんな 性格のように ふるまうのか
-
どこまで答えて、どこで 断る のか
そういった“ふるまい”の全体像を、項目ごとに分解しながら、
例を参考にして あなた自身に合った応答スタイル を形にしていく作業です。
AIが発する一言ひとことが、あなたの“顔”として受け取られるからこそ、
ここでの設計がそのまま信頼の設計につながっていくのです。
この章で整理した内容は、次の章で実際にAIへ設定する手順につながります。
「人格」を構成する8つの要素
ここで紹介するのは、接客対応を目的としたAIエージェントにおいて、
ユーザーに「人となり」や「信頼感」を伝えるために設定すべき8つの要素です。
工場制御や機械作業向けのAIとは異なり、ここでは対人コミュニケーションが前提となります。
※機械制御型では、知識の正確さや応答の網羅性のほうが重視されます。
以下の8項目は、最低限検討しておきたい設定ポイントです。
表内には「選べるデフォルト例」を記載しています。余裕がない場合はこの中から選んでもOKですが、
できれば自社や自分の“らしさ”を出した独自の設定を目指すのが理想です。
✅ 「人格」を構成する8つの要素(接客系AIエージェント向け)
設定項目 | 内容の説明 | デフォルト例(選択例) |
---|---|---|
文体 | ていねい語か、カジュアルか。語尾表現のスタイル。 | ビジネス敬語/やわらか敬語/タメ口/昭和風カジュアル |
トーン | 声の雰囲気や空気感。明るさ、スピード感、言葉の抑揚。 | 明るく元気/落ち着いたまじめ/ゆるふわ癒し系/冷静 |
キャラクター性 | 話し方ににじませる性格的な傾向。 | しっかり者秘書/頼れる先輩/おばちゃん風/新人風 |
応答の範囲と深さ | どこまで答えるか、答えられない時どう断るか。 | FAQまで対応/雑談可/難しい内容は謝罪対応/NG明記 |
初期応答 | 最初にどう出迎えるか、会話の入り口。 | 「こんにちは!何をお探しですか?」/「ご用件をどうぞ」 |
FAQのトーン | 定型質問の返答文体。どのくらい砕けるか。 | 丁寧かつ簡潔/カジュアル寄り/箇条書きベース/テンプレ風 |
禁止ワード・対応NG | 使ってはいけない言葉、話題、答えない領域。 | 否定的な表現/スラング/法律・医療の断定回答は避ける |
雑談対応のスタイル | 雑談を受けるか否か、切り返し方法のスタイル。 | 軽く対応/話題を変える/「ごめんなさい」で断る/非対応 |
💡 補足
-
これらはすべて仕様として設定できる要素です。
-
一度にすべて決めなくても大丈夫。使いながら育てていく設計思想も有効です。
-
雑談や対応スタイルは、ユーザー属性や導入現場に応じて調整するのが自然です。
-
過剰なキャラづけや設定は、誤解や混乱の原因にもなるため注意が必要です。
どうやって決めていけばいいのか
✅ まずは「こんなふうに決めていきます」
人格の設定は、いきなり完璧を目指す必要はありません。
最初は「誰にどう接客させたいか」をイメージして、
ひとつずつ項目を埋めていく感覚で進めていけば十分です。
以下に、ある小規模店舗オーナーの例を表で示します。
さらにその下には、8つの設定項目ごとのバリエーション例を掲載しています。
余裕がない場合はこの中から選ぶだけでも形になります。
ただし、本来は自分や会社の“らしさ”を反映したカスタマイズが理想です。
のちに実際の設定を行う際、その例をそのまま設定するようにしますので、「丁寧に考える/余裕が泣けrばとりあえず選択する」ようにしてください。
🧾 例:雑貨系オンラインショップのエージェント人格設定例
属性 | 設定内容(例) | 意図・背景 |
---|---|---|
文体 | やわらか敬語+くだけた語尾 | 丁寧すぎず、親しみもある雰囲気にしたい |
トーン | 明るく落ち着いた口調 | 元気すぎず、でも声をかけやすい感じ |
キャラクター性 | 頼れる先輩店員タイプ | 質問しやすく、信頼される存在感を出したい |
応答の範囲・深さ | 商品や配送情報まで回答、専門外はやんわり断る | 境界線を明確にしつつ誠実な対応を保つ |
初期応答 | 「こんにちは!お困りごとはありますか?」 | 入り口でやさしく迎えて行動を促す |
FAQのトーン | 丁寧+カジュアル寄りの文体 | 柔らかさを保ちつつ、信頼性も確保 |
禁止ワード・NG | 医療・法律・価格交渉などは対応しない | トラブル回避と責任の明確化 |
雑談対応 | 軽い話題には対応、深掘りは丁寧にカット | 親近感と業務のバランスを保つ |
🔁 参考:各属性ごとの選べるバリエーション一覧
以下の一覧から選ぶことで、最低限の人格設定がすぐに整います。
もちろん、これらを組み合わせたり、独自のアレンジを加えることも可能です。
① 文体(口調)
属性 | 説明 | タイプ名 | 話し方の例 |
---|---|---|---|
文体 | ていねいさ、語尾の使い方 | ビジネス系敬語 | 「承知いたしました。こちらをご案内いたします」 |
商店街のおばさん風 | 「あら〜ありがとねぇ、返品は7日以内ね〜」 | ||
タメ口(友達系) | 「うん、そうだよ!これはこういう仕組みなんだ」 | ||
やわらか敬語 | 「わかりました〜。こっちをご覧くださいね」 |
② トーン(声・空気感)
属性 | 説明 | タイプ名 | 話し方の例 |
---|---|---|---|
トーン | 明るさ、テンポ、感情の強さ | 明るく元気 | 「はいっ!こちらですねっ!お任せくださいっ!」 |
落ち着いた・まじめ系 | 「恐れ入ります。詳細はこちらをご覧ください」 | ||
ゆるふわ癒し系 | 「うんうん、だいじょうぶだよ〜、安心してね〜」 | ||
冷静・キリッと系 | 「その件について、情報は見つかりませんでした」 |
③ キャラクター性(性格)
属性 | 説明 | タイプ名 | 話し方の例 |
---|---|---|---|
キャラ | 印象に残る話し方・態度 | しっかり秘書タイプ | 「お疲れさまです。本日はいかがいたしましょうか?」 |
頼れる先輩社員 | 「よし、じゃあ一緒にやってみよっか」 | ||
商店街のおばちゃん | 「はいはい〜なんでも聞いて〜!」 | ||
新人アルバイト風 | 「あっ、はいっ!えっとですね…それは…」 |
④ 応答の範囲・深さ
属性 | 説明 | タイプ名 | 応答例 |
---|---|---|---|
応答範囲 | どこまで対応するか | FAQまで対応 | 「よくあるご質問はこちらをご覧ください」 |
難しい質問は謝罪 | 「申し訳ありません、現在調査中です」 | ||
柔らかく断る | 「ごめんなさい〜、そこまではわからないのです〜」 | ||
NG明言 | 「この件は対象外とさせていただいております」 |
⑤ 初期応答(最初の挨拶)
属性 | 説明 | タイプ名 | 挨拶例 |
---|---|---|---|
初期応答 | 会話の入り方 | 明るく元気 | 「こんにちはっ!今日はどうされましたか?」 |
落ち着き・丁寧 | 「ようこそお越しくださいました。ご用件をどうぞ」 | ||
カジュアル | 「やっほ〜!何か聞きたいことある〜?」 | ||
事務的簡潔 | 「ご質問内容をお聞かせください」 |
⑥ FAQのトーン
属性 | 説明 | タイプ名 | 応答例 |
---|---|---|---|
FAQトーン | 定型文の調子 | 箇条書き型 | 「A:○○です/B:××です」 |
丁寧ガイド型 | 「よくあるご質問にお答えします。まずは…」 | ||
カジュアル型 | 「あ〜、それはたぶんこういうことだよ〜」 | ||
無機質ロボ風 | 「FAQ応答:完了しました」 |
⑦ 禁止ワード・NG領域
属性 | 説明 | タイプ名 | 応答例 |
---|---|---|---|
NG対応 | 答えない範囲 | 医療・法律禁止 | 「その内容にはお答えできません」 |
スラング排除 | 「その表現は使用できません」 | ||
否定ワード禁止 | 「ごめんなさい、否定的な言い方は控えています」 | ||
政治・宗教NG | 「その話題は対象外とさせていただきます」 |
⑧ 雑談対応スタイル
属性 | 説明 | タイプ名 | 応答例 |
---|---|---|---|
雑談 | 余談・軽口への反応 | 軽く付き合う | 「へぇ〜面白いですね!」 |
丁寧に断る | 「すみません、その話題には対応していないんです」 | ||
話題切り替え | 「さて、ご質問に戻りますね」 | ||
完全無反応 | 雑談には一切反応しない設定 |
💡 データが見つからなかったときの返し方(=フォールバック応答)
ナリッジベースに該当情報がないとき、AIにどう返してもらうかを事前に決めておくことはとても重要です。
これは「性格」というよりも「受け答えの姿勢」に関わる設定です。
以下に、代表的な返し方と合わせて、段階的な返答の流れも例示します。
🧩 段階的な返答例(組み合わせて使う)
-
まずはナリッジ(固定データベース)を参照
-
該当がなければ、検索して答えさせる(RAG型など)
-
それでも見つからなければ、以下のように返す:
✅ 返し方のパターン(一覧表)
状況 | タイプ | 話し方の例 | 特徴・目的 |
---|---|---|---|
ナリッジにない | 検索に誘導する型 | 「その件については、こちらをご確認ください → [リンク]」 | サポートページなどに案内して解決を促す |
ナリッジ・検索ともにない | 正直に謝る型 | 「申し訳ありません、それはわかりませんでした」 | 誠実さと信頼性を優先 |
〃 | やんわりかわす型 | 「その件については今のところ対応していないのです」 | 否定感をおさえるやわらかい表現 |
〃 | 別質問に誘導型 | 「ほかに聞きたいことがあればお答えしますね」 | 会話を切らさず、前向きに切り替える |
〃 | 無感情な処理型 | 「該当情報:見つかりませんでした」 | システマチックな印象を与える |
〃 | 完全スルー型 | (反応なし or 同じ定型文で返す) | 誤動作を避けたい場合などの処理手段 |
🛠 どこでどう設定するか?
フェーズ | 何を設定する? | どうやって設定する? |
---|---|---|
人格設計(この章) | 該当なし時の言い方/態度 | 上記表からトーンや文体を選んでおく |
実装フェーズ(次章) | ナリッジ→検索→固定返答の順番制御 | GPTsのプロンプト/RAGの処理フローで実装する |
このように、「まずはナリッジ、なければ検索、それでもなければこう答える」
という流れをあらかじめ設計しておくことで、使いやすく誤解の少ないエージェントができます。
✅ まとめと心構え
-
最初はこのように、表を埋める感覚で「ざっくりと」決めるだけでも大丈夫です。
-
雑談やFAQトーンなどは、運用後に微調整していく方式もおすすめです。
-
無理に凝りすぎると誤作動・混乱・違和感の原因になることもあります。
-
エージェントの人格設計は、信頼の土台になります。
「誰に、どう見られたいか」から逆算して決めるようにするとスムーズに決めることができます。